何も言わないために喋り続けている
何も言わないために喋り続けている
(篠原美也子「秒針のビート」/アルバム「種と果実」収録)
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私はどちらかと言うとよく喋る方だ。しかも早口だ。
でも、本当は何も言いたくない時の方が多い。
ただ、会話に出来てしまう「間」や「沈黙」が怖くて、
意味も無く喋り続けているだけだ。
そういう時に喋っていることは、本当に意味が無い。
だって、私は、本当は何も言いたくないのだから。
何も言わないために喋り続けるより、
沈黙に耐える勇気の方が必要だと、
本当は、分かっている、けれど。
- 篠原美也子
- 種と果実
未来の自分が簡単に描けてしまう
こんなに不安なのは明日が見えないからじゃなく
未来の自分が簡単に描けてしまうから
(篠原美也子「30's blue」/アルバム「種と果実」収録より)
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死ぬ程退屈している、と感じる瞬間が在る。
毎日毎日、帰ってくると、
次の日の天気予報をネットで確認して、
着る服を選んで、起きる時間に目覚ましをセットして、
毎日がその繰り返しだ。
明日は、見えてしまっている。
人生はそんなもので、劇的なことなんかそうそう起こらなくて、
寧ろ起こらない方が良い人生だと、分かっている。
それでも、どうしようも無い程不安になったりする。
限りなく単調な未来が見えてしまっていることに。
でも、その退屈さと不安に耐えていくことが、
それがきっと、「生きる」ということなのだろう。
- 篠原美也子
- 種と果実
持っていないことは恥ではない
持っていないことは恥ではない。
探していけばいいのだ。
(村上龍「蔓延する偽りの希望 すべての男は消耗品である。vol.6」幻冬舎文庫より)
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この文章を読んで、何だか少しほっとした。
私は何も持っていなくて、何も出来なくて……、
だから、私は、駄目だ、
と思っていたけれど、
これから探して、これから見付けて、
これから出来るようになればいいんだな、
と思った。
そうしたら、ほんの少しだけ、気が楽になった。
今からだ、これからだ
(このフレーズも他人の受け売りなのだけれど)。
- 村上 龍
- 蔓延する偽りの希望
コビれねえ女
「フン。苦労するぞ黒子。コビれねえ女はよ」
(日本橋ヨヲコ「極東学園天国」第1巻/小学館より)
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黒子、というのは女の名前。
この言葉は文字通りにとってもいいのだろうけれど、
ふと、案外深い言葉何じゃないかと思った。
媚びる、という行為は、
甘える、というニュアンスが含まれていると思う。
甘え、というのは、
それ単独ではとても褒められた行為ではないのだけれど、
でも、女が男に甘える時は、少し独特の意味を持つ時が有る。
つまり、本当は甘えたいわけではないのだけれど、
男は女に甘えられると頼られているような気分になったりするので、
男を立てたい時に女はわざと甘えたふりをしたりする時が有ると思う。
だから、媚びることの出来ない女は、
或る意味では男に甘えられない、
男を立てられない女で、
そういう女が苦労する、というのは、
あながち間違っていないのではないか、
と、ふとそう思った。
- 日本橋 ヨヲコ
- 極東学園天国 1 (1)
あなたは幸せでいて
さよならが教えてくれた
生まれたばかりの気持ちで
続いていく青空に
何度でも終わりを告げるから
街明かり そのどこか
あなたは幸せでいて
(矢井田瞳「モノクロレター」より)
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生まれたばかりの、気持ち。
そこまで大袈裟ではなくても、
恋に落ちたばかりの気持ち、
そしてその人のことに夢中だったころの純粋な気持ち、
そんなものをふと思い出すと、
こんな気持ちだったかもしれない、そう思う。
たとえ二人の関係がどうなろうとも、
相手の幸せを思う、
貴方は幸せでいて、幸せになって、と。
多分それが一番純粋で純朴な、愛、の形、で。
- 矢井田瞳, 村田昭, 片岡大志
- モノクロレター
強くならざるを得なかった
村上 すごく傷つきやすかったり、
柔らかかったりするんだよ、
コアの部分は。
中田 うん。だからそのぶん武装というか、
いろいろなものを身につけて、
ひとりでどうにかやっていかなくてはいけないから、
強くならざるを得なかったというのが正直なところです。
(村上龍・中田英寿「文体とパスの精度」集英社文庫より)
*
本当に強い人は、武装はしても、
それを外して構わない相手、
または外さなければならない時には、
外せるのだと思う。
本当の強さを持たないで、
ただ自分を守ろうと必死になって壁を築く人は、
常にその壁の中に閉じ籠もってしまう。
本当は弱い部分を見せなければならない人、
弱い部分を見せなければならない場面でも、
強い(ように見える)自分を貫き通してしまう。
……そういう私も、無意識に壁を作るタイプの人間なので、
必要な時には武装して、
不必要な時にはそれを外せるだけの、
柔軟性を身につけたいな、と思う。
- 村上 龍, 中田 英寿
- 文体とパスの精度
笑顔ひとつで
私は…
私は…っ
死ぬほど
あんたに
怒ってるのよ…!!
なのに
そんな
うわごとみたいので
ごまかしみたいな
笑顔ひとつで
どうして――
私がこんなに
幸せにならなきゃならないの……!!
あんたは
世界一
ずるい――
(樹なつみ「OZ完全収録版」第3巻/白泉社より)
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天才家系において唯一の凡人・ヴィアンカは、
妹の天才科学者・フィリシアのボディーガード、
傭兵のムトーに恋心を抱くが、
ムトーはヴィアンカに真摯に向き合うことはあっても、
決して恋愛対象としては見ない。
そんなムトーが負傷し、
成り行きで彼を看病することになったヴィアンカ。
高熱の中から一瞬目覚めたムトーの言葉と笑顔に、
揺れるヴィアンカのモノローグが上記。
まったく、ヴィアンカは可愛い女だよね、と思う。
可愛くて、バカだ。
例え脈が無くても、女として見て貰えていなくても、
好きな男の笑顔、というのは、
恐ろしく強烈な威力を持つもので、
こちらがどれだけ怒っていようと憎んでいようと、
そんなネガティヴな感情を一瞬で消し去ってしまう。
本当に、惚れた相手に笑顔を見せられたら、叶わない。
だったら、さっさと白旗を揚げてしまって、
でもその恋から逃げ出すことはしないで、
というのが私の理想なのだけれど、
実際はいつも、潔く白旗を掲げる度胸が持てないでいる。
- 樹 なつみ
- OZ 3 完全収録版 (3)
「きょうも生きのびた」
村上 本当は「きょうも生きのびた」というだけで人間は勝利なのに、
この国ではそのほかにいろいろ要るんですよ、
生きがいとか恋愛とか、老後の保障とかね。
それも何かおかしいと思うんです。
生理的にそういうのが嫌いだったんです。
(村上龍/村上龍対談集 存在の耐えがたきサルサ/文藝春秋より)
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この思いには、とても共感する部分が有る。
特に、恋愛に関して。
彼氏も彼女も居なくたって、生きていくのには何も困らないのに、
どうして彼氏や彼女が居ない人間は残念そうにしたり、
どこか恥ずかしそうにしなければならないのだろう、
と思春期の頃から思っていたし、今も思っている。
純愛ドラマの流行にしても、
日本全体が「恋愛依存症」になっているんじゃないか?
……でも、恋愛自体は、素晴らしいものだと思う。
普段とは違うワクワクした高揚感や、
ドキドキする緊張感が味わえる
(そしてその結果女は妙に綺麗になったりもする)。
だけど、そこに依存しては、いけない、のだ。
生き延びただけで、人間は勝利。
この言葉は、とても清々しい。
- 村上 龍, 中上 健次
- 存在の耐えがたきサルサ―村上龍対談集
がんばらなければならないのか
ただし問題は、教育する側が、
なぜ「ど根性」を出して「一生懸命」がんばらなければならないのかということを、
どう教えていくかだと思う。
(村上龍編集/JMM VOL.8 教育における経済合理性/NHK出版より石澤靖治の発言)
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答えは簡単だ。
何故「ど根性」を出して「一生懸命」頑張らなければならないのか、
と言うと、
どんなに社会が豊かになろうが、
人が自立して他人に依存しないで生きていくのは、
「ど根性」を出して「一所懸命」頑張らなければ出来ないことだからだ。
一人で生きていく、というのは、そんなに簡単なことではない。
なのに、それが簡単なことのように勘違いされているのは、
多分、「パラサイト・シングル」や「ニート」と呼ばれる人々の存在に代表されるように、
本来なら一人で生きていけない人間でも、
誰か(大部分は親)が養ってしまっているからだ。
本当の意味で一人で自立して生きる、というのは、
簡単なことではない。
もういい年して家を出て行く気も無い、
将来設計を立てるつもりでもない子供は、
路上に放り出してしまえよ、
と思う私は冷酷なのだろうか……?
自分の実際の力量
常に奇蹟を追いもとめるということは、
気がつくたびに落胆するということの裏と表で、
自分の実際の力量をハッキリ知るということぐらい悲しむべきことはないのだ。
(坂口安吾/堕落論/角川文庫より)
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人間は多分、自分の力量を半分は把握して、
半分は把握出来ていないから、希望を持つことが出来るのだろう。
安吾が言うように、自分の力量を完全に把握してしまったら、
本当は絶望するしかないのではないだろうか。
今の自分の力量を正確に把握して、
それでも明るい未来を思い描くことが出来たなら、
それが本当の希望、なのかも、しれないけれど。
そう出来る精神力を持っていることが、
もしかしたら希望の本質、なのかもしれない。
- 坂口 安吾
- 堕落論