笑顔ひとつで | 螺旋階段

笑顔ひとつで

私は…
私は…っ
死ぬほど
あんたに
怒ってるのよ…!!


なのに
そんな
うわごとみたいので
ごまかしみたいな
笑顔ひとつで
どうして――
私がこんなに
幸せにならなきゃならないの……!!


あんたは
世界一
ずるい――
(樹なつみ「OZ完全収録版」第3巻/白泉社より)



天才家系において唯一の凡人・ヴィアンカは、
妹の天才科学者・フィリシアのボディーガード、
傭兵のムトーに恋心を抱くが、
ムトーはヴィアンカに真摯に向き合うことはあっても、
決して恋愛対象としては見ない。
そんなムトーが負傷し、
成り行きで彼を看病することになったヴィアンカ。
高熱の中から一瞬目覚めたムトーの言葉と笑顔に、
揺れるヴィアンカのモノローグが上記。
まったく、ヴィアンカは可愛い女だよね、と思う。
可愛くて、バカだ。
例え脈が無くても、女として見て貰えていなくても、
好きな男の笑顔、というのは、
恐ろしく強烈な威力を持つもので、
こちらがどれだけ怒っていようと憎んでいようと、
そんなネガティヴな感情を一瞬で消し去ってしまう。
本当に、惚れた相手に笑顔を見せられたら、叶わない。
だったら、さっさと白旗を揚げてしまって、

でもその恋から逃げ出すことはしないで、
というのが私の理想なのだけれど、
実際はいつも、潔く白旗を掲げる度胸が持てないでいる。



樹 なつみ
OZ 3 完全収録版 (3)