螺旋階段 -4ページ目

先に逝きよった

「幸一はよく泣く子だった、
寝つかん夜はおぶって母さんと一晩中歩いたこともある。
母さんは幸福だったんかのう。
仕事ばかりして、ゆっくり話も聞かんかった。
そしたら先に逝きよった」
(岡崎京子「乙女ちゃん」/「エンド・オブ・ザ・ワールド」収録より)



息子(幸一)と喧嘩をして、家を飛び出して川縁を歩いていた父親の台詞。
母親は、既に亡くなっている。
何故だかわからないけれど、この台詞を読んだ瞬間、
泣きそうになった。
感動した、とはちょっと違うかもしれない。
何か、どうしようもない程に懐かしいものに出会った、
強いて言えばそういう気分だった、かもしれない。
やるせない切なさ、そんなものがそこには在って。


著者: 岡崎 京子
タイトル: エンド・オブ・ザ・ワールド

あなたが思ってるような人間じゃない

「ちがう!!
あなたは、おれに感謝する必要なんかないんだ!!
おれは――、あなたが思ってるような人間じゃないんだ……!!」
 
あなたが感謝を込めて見つめる度
おれは…
たまらなかったんだ――
(樹なつみ「OZ 完全収録版」第4巻/白泉社より)



天才家系・エプスタイン家の次女、フィリシアは、
兄のリオンが居るという理想の科学都市・OZへの旅の途中、
常に彼女を守り続けた傭兵・ムトーに恋心を抱く。
彼等は危険な旅の末、遂にOZに辿り着き、
フィリシアに感謝の言葉を述べられたムトーが、
意外な反応を見せる場面。
理由は後に明らかになるのだけれど、
ムトーはフィリシアに感謝されることに罪悪感を感じている。
そしてその罪悪感こそが、
彼がそれこそ命懸けでフィリシアを守り続けてきた理由だった。
罪悪感は、時に、人を動かす強烈な原動力になる。
そして、それを素直に表出することに苦痛を伴うので、
罪悪感は攻撃性や逆に愛情にも似た形で行動に表れることがある。
素直に謝罪出来れば一番いいのかもしれないけれど、
あまりに強い罪悪感は、なかなかそのまま表出は出来ない。
でも、時には罪さえ受容し、抱擁する愛も、存在するのだ。
「OZ」は、そういったことを静かに語る物語でも、ある。

(2005.6.26.一部改稿)




著者: 樹 なつみ
タイトル: OZ 4 完全収録版 (4)

あなたを知らなければ

からだが
あなたを知らなければ
引きずる想い出もなかった
(Cocco「雲路の果て」/アルバム「ベスト+裏ベスト+未発表曲集1」収録より)



体があなたを、男を知らなければよかった、
なんてことは、決してない。
引きずる思い出がどれだけ辛くても、
思い出を引きずって生きることがどれだけ辛くても、
それでも、あなたを知らなければよかった、
なんていうことは、決して、ない。
その男と過ごした時間という事実がどれだけ辛くても、
それを切り離したりしない。
その男と関わった辛さを抱えて生きてゆく。
それも、愛。

(2005.6.26.一部改稿)



アーティスト: Cocco, こっこ, 根岸孝旨, 成田忍
タイトル: ベスト+裏ベスト+未発表曲集

傷つかずに始まるものは無い

あなたから背を向けて 傷つかずに始まるものは無い
(篠原美也子「前髪」/アルバム「half moon」収録より)



そう、傷付かずにに始まるものなんて、何も無い。
愛してしまったら、その人から背を向けて、
視界からその人を失って、傷付かないわけが無い。
失ったら全てが痛みを伴う。
それでも、そうだとしても、失うことを恐れずに、
失うことに怯え続けたりせずに、
それでも愛していると、
……思い続けることが、愛情だ。
照れ臭くて、恥ずかしくて、
なかなか伝えられないままだけれど。

(2005.6.26.一部改稿)


アーティスト: 篠原美也子
タイトル: half moon

誰にも渡さない

殺してやる

フィリシアもヨウも…!

誰にも渡さない

私が

殺してやるから――!!

樹なつみ「OZ完全収録版」第1巻/白泉社より)



天才家系エプスタイン家で唯一凡人の長女、ヴィアンカが、

次女のフィリシアとOZを目指していたムトーと、

アクシデントで短い時間を共にして、命を救われ、

あるがままの自分を受け入れて貰い、彼を愛するようになるが、

しかしムトーは再びフィリシアと共に旅する為、

ヴィアンカの元を去ってしまう。

彼を引き止めようと銃口を向けながら撃てなかったヴィアンカの、

壮絶なモノローグ。

愛する人間が他人のものになるくらいなら、

いっそのこと殺してやる、と思い詰める。

でも、実際にはヴィアンカはムトーを殺すことなんて、

出来ない、のだけれど。

(2005.6.26.一部改稿)


※「ヨウ」はぎょうにんべんに羊、と書きますが、

 ブラウザだと上手く表示出来ないようなのでカタカナにしました。




著者: 樹 なつみ
タイトル: OZ 2 完全収録版 (2)


選べるのは誰

夢中になった方 夢中にさせた方
愚かなのはなぜ? 選べるのは誰?
(篠原美也子「愛している」/アルバム「SPIRAL」収録より)



愚かな恋をした、というのは、美也子さんの「白い月」の一節だけれど、
本当に愚かな恋をしていた時があった。
本当に夢中になって、生活の全てがその人の色に染まっていて、
頭の中はいつもその人のことで一杯で、
でも、彼は私に恋愛感情を持っていなかった。
夢中になった私、そして、
意識的にしろ無意識的にしろ、
夢中にさせた、彼。
選べるのは誰なの? といつも思っていたのを覚えている。
私が追いかけるのを止めてしまえばいいの?
貴方が私を拒絶すれば、そこで終わるの? と。
選べたのは、本当は、どちらだったの、だろう、と、
……今でも、思って、いる。




アーティスト: 篠原美也子
タイトル: SPIRAL

もう会わない

もう会わない
いつも決める 座り込んだ階段の途中
もう会わない
愚かな夢見たがる心止めなきゃ
(篠原美也子「ドアまでの距離」/アルバム「half moon」収録より)



昔、好きだった男が居て、全然相手にされていないのは分かっていて、
でも「来る者拒まず」がスタンスの男だったので、
私が部屋に遊びに行くと、まあ入れてくれたりしていた。
彼の部屋はマンションの2階で、いつも階段を使って昇っていた。
でも、会う度に、相手にされていない、というのが毎回身に染みて、
もう会わない、そう思いながら、いつも階段を下りて、
でも、そう思いながら動けなくなって、階段の途中でしゃがみ込んで、泣いて、
誰か来たら困るから、早く帰らなきゃ、帰らなきゃ、
もう来ない、もう会わない、思えば思う程に、
足は動いてくれなくて。
(2005.6.26.一部改稿)

アーティスト: 篠原美也子
タイトル: half moon

口はそれ故につぐまれる

からだの中に

深いさけびがあり

口はそれ故につぐまれる

(谷川俊太郎「朝のかたち」角川文庫収録「からだの中に」より)




これは、そうだ、と思う。

本当に、叫び出しそうな強い感情が体の中に在る時、

却って、何も言えなくなってしまうことの方が多い。

本当に現実で叫ぶことが出来る時は、

ほんの僅かしか無い。

伝えたいのに伝えようが無い強い感情は、

ただ胸の中で、出口を求めて彷徨うばかり、で。




著者: 谷川 俊太郎
タイトル: 朝のかたち―谷川俊太郎詩集 2

充分に立派

働いて自分の生活を維持していれば

それだけで充分に立派なことなのです。

(村上龍「誰にでもできる恋愛」幻冬舎文庫より)



何だか、この文章を読んで、ほっとした。

あれも出来ていない、これもしていない、

と、最近あれこれ自分の駄目なところ探しにはまっていた感じがあったのだけれど、

そうかあ、自分のお給料で自分で責任を持って生活していれば、

それだけで取り敢えずはいいのかあ、

と思った。

そうか、そうか。

(2005.6.26.一部改稿)



著者: 村上 龍
タイトル: 誰にでもできる恋愛

ヒトの心が

ヒトの心が なんでも決めている

(B'z「愛のバクダン」/アルバム「THE CIRCLE」収録より)



その通り、だと思う。

最後は、やっぱり人の心次第。

物事がどう動くかは、状況に左右されているようで、

でも実は人間の心が決めていることも物凄く多いのだ。

だから、自分の心を、しっかり持っていたい、と思う。



アーティスト: B’z
タイトル: THE CIRCLE