螺旋階段 -6ページ目

利婚

しかし別れたくても別れられない、
なんらかの利のために利婚しているのだって、
ある種の愛情だと思えなければ
男と女がひとつ屋根の下で暮らすなんて
到底できるものではない。

(柳美里「私語辞典」角川文庫より)

 

 

「利婚」とは柳美里の造語だが、

私はこの言葉がとても気に入っている。

男と女が出会った時の愛情が一生続けばいいけれど、

現実はそうはいかないことの方が圧倒的に多い。

そうなったら、二人を繋ぐのはやはり利益なのではないだろうか。

利益の為だけに結婚するのもあんまりだと思うが、

愛情だけで結婚するのも、どうかと思わなくもない。

 

著者: 柳 美里
タイトル: 私語辞典

望めば望むほどに

燃えるような赤に憧れて
声を嗄らして叫んでみたけど
燃え残る思いはいつも同じ
望めば望むほどに ありふれたグレイ
(篠原美也子「ありふれたグレイ」/アルバム「everything is passing」収録より)

 

 

憧れている人が居る。

今の自分は嫌いだ。

こんな自分は嫌だ。

変わりたい。

そう思って、色々足掻いたり悪戦苦闘してみたりするけれど、

疲れ果てて、ふと鏡を見ると、

映るのは何も変わらない自分だったりする。

化粧の仕方を変えてみたり、髪を切ってみたり、

いつもとちょっと違う洋服を着てみたり、

どんなに色々なことをしてみても、

結局自分が自分であることからは、逃れられない。

でも、変わろうとする努力は無駄ではないし、

自分が自分であることからは逃れられないことも、

その自分が絶えず変化していく存在であることも、

どちらも事実だ。

その全てを、受け入れていくしか、ない。

 

アーティスト: 篠原美也子
タイトル: everything is passing

不安になる

人の期待にこたえて動いていなくちゃ 不安になる
誰から見てもいい人は
ねぇ いないの いないのに

(鈴木祥子「Angel」/アルバム「Candy Apple Red」収録より)

 

 

全くもってその通り。

誰から見てもいい人、なんてものは、存在し得ない。

なのに、私もやっぱり、誰からも悪く思われたくなくて、

誰かの期待に添おうとして必死になってしまう。

誰かに嫌われるのは怖いし、

嫌われるんじゃないかという不安も常に在る。

でも、誰から見てもいい人、というのが存在しない、

というのは、厳然たる事実だ。

もうちょっと気楽に生きられたらなあ、というか、

気楽に生きる努力をしなければいけない。

もっと言うと、誰かに嫌われても気にしないようにならなければならない。

誰かに嫌われる勇気を、持たなければならない。

それはとても難しいこと、だけれど。

 

アーティスト: 鈴木祥子, 菅原弘明, 曽我部恵一
タイトル: Candy Apple Red

 

 

やめないというのが大事

簡単に関係をやめないというのが大事だと思うんです。

(ダ・ヴィンチ第12巻第3号よりトニー・ラズロの発言)

 

 

トニーは「ダーリンは外国人」でブレイクした漫画家・小栗氏の夫。

私は常に対人恐怖と自分が無価値だという不安

(これは関連し合っているものだが)が在る人間なので、

直ぐに誰かとの関係を止めたくなる。

私が関わらない方がこの人は幸せなのでは、と思ってしまう。

それは妄想と紙一重なのだけれど、

でもそう思っている時は本気でそう悩んでいて、

特に恋愛関係だとその感情の渦にはまってしまって、

どうにもこうにも抜け出せない時が有る。

でも、やっぱり誰かと関係が出来たら、簡単に切ってはいけないのだ。

今や何十億と地球中に溢れている人間、

でもその中には同じ人間というのは絶対に存在していなくて、

その掛け替えのない1人のうちの誰かと関係を持てたのだから、

そんな貴重なものを、訳のわからない不安などを理由に、

簡単に切り離してはいけない、のだ。

なぜか不安で

何をしても誰かが笑ってるようでなぜか不安で

(篠原美也子「ひとり」/アルバム「SPIRAL」収録より)

 

 

これは、私の根底にいつもある不安。

常に、ひどい時は眠っている間にも、こう思っている。

誰かに嘲笑されているのではないか、疎まれているのではないか、と。

多分それは被害妄想に近いものだと思うのだけれど、

この不安の内容が事実では無い

(事実の場合も在るかもしれないが)、

と自覚しているので、辛うじて妄想には至っていない。

妄想とは、それが事実で無いということを本人が認められないものである

(基本的には、の話だが。事実でないことを自覚する人も居る)。

でも、それでも、私はいつも、殆ど常に、不安だ。

理由は、篠原美也子が歌っているのと同じで、わからない。

 

アーティスト: 篠原美也子
タイトル: SPIRAL

いやらしいこと

「あの人にいやらしいことされたくて、待ってるの」

(日本橋ヨヲコ「極東学園天国」第2巻より)

 

 

思わず「そうなんだよねえ」とにやけてしまった台詞。

そう、女の性欲は男の様に無差別にあちこちには向かわないけれど、

本当に好きな男に対しては、きちんと欲情するものなのだ。

愛している男には、本当はいやらしいことをして欲しいのが、女だ。

そうでは無い人も居るだろうけれど、私はそうだ。

そして、こう思わない女は、単に経験が少ないのか、

或いは良くない体験ばかりだったのか、

それとも他に何か問題が在るのかもしれない、

と思ったりする。

そして、誰に対してもこう思ってしまう女も、

何か深い問題を抱えているのかもしれない、とも思う。

 

著者: 日本橋 ヨヲコ
タイトル: 極東学園天国 2 (2)

 

 

 

 

こわいから

こわいから時計は見ない
(篠原美也子「split」/アルバム「種と果実」収録より)

 

 

いつの間にか、時間が驚く程速く流れるようになっていった。

1日は長いようで、1月はあっという間に過ぎる。

残された自分の時間がどんどん少なくなっていくのばかり感じる。

今、こうしている間にも時計の針は進んで、

昔は自分が成長しているように感じさせてくれた時の流れが、

今は自分のこれからがどんどん減っているように見える。

時計を見るのはとても怖いけれど、

だけど私は腕時計をしていないと安心出来ない。

それは単に、昼も夜も曜日も関係無く働いているので、

時計を見ないと時間と日付と曜日がわからなくなるからだけれど

(ひどいと時計を見ても午前なのか午後なのかわからない時が有る)。

そんなわけで、今愛用している腕時計は日付と曜日も入っている。

逃げてる

そう逃げてる
いつかそれを 失うのが怖くて
かけがいのないものを作ることから逃げ出してる

(B'z「BAD COMMUNICATION(000-18)」/アルバム「LOOSE」収録より)

 

 

掛け替えのないモノなんか、つくっちゃ駄目だよ、
と「私」が私の耳元で囁く時が在る。
そんなもの、代わりが絶対に見付からないモノなんて、持っちゃ駄目だよ、と。
一旦掛け替えのないモノ(人も)を持ってしまったら、
それを失った時にそれから生きていく方法が、
わからなくなってしまうからね、と「私」が私を脅かす。
でも、それはどこまでも自分本位の考え方で、
飽くまで自分を守ろうとしている考え方で、
対象のことなんかこれっぽちも考えちゃいない。
ただ、掛け替えのない何かを失う恐怖から、
関係が始まってしまったら生まれる、
いつかその関係が消失する時の分離不安から、
全力で逃避しているだけ、だ。
そんな態度、何にもなりゃしないよ、と、時々私は「私」に言い返してやっている。
いいんだよ、私にも大事なもの、大好きなもの、愛するものが在った、
その記憶だけで生きていけるってことも、あるんだからさ、と。

 

アーティスト: B’z, 稲葉浩志, 松本孝弘, 池田大介
タイトル: LOOSE

 

 

守れやしないんだ

金も名誉も力も無いから信じるものも守れやしないんだ
(篠原美也子「冬の夜」/アルバム「SPIRAL」収録より)



これは事実。でも、事実の一面でしかない。
信じるものを守れない一番の原因は、
心が弱いから。自分のたましいに背いているから。
信じるものを信じ抜く強さが無いから。
この歌は、面倒になるだけだよ、
下らないこだわりなんか、さっさと捨てちまえよ、
そういう声に抗う術を持っていないことを知りながら、
「あきらめたくはない」と呟く人間の歌。
大丈夫、そう呟けるうちは、まだ、信じる強さは残っているから。
信じたいものを信じる力が無くなってきている、
と感じる時、そっと背中を押してくれる歌、だ。




アーティスト: 篠原美也子
タイトル: SPIRAL

なお美しい

ほんものの女は
所謂女らしさをきっぱり棄てて、
なお美しいひと。
(柳美里「私語辞典」角川文庫より)



これは、そうだよなあ、と思う。
生殖能力や生命力や弱さや可愛らしさ=女、ではない。
子持ちのオバさんは或る意味では「女」そのものだが、
しかし同時に「女」というものから遠くかけ離れていたりする。
こういう美しい人はごく希に居て、
具体的にイメージ出来るのだけれど、
でも、何となく、
男はこういう女の人を「女」と見なさない気がする。
理由は、よく分からないけれど。
……取り敢えず、男と飲んでも女と見なされない私は、
どういう意味でも「女」から程遠い気はするが……。





著者: 柳 美里
タイトル: 私語辞典