先に逝きよった | 螺旋階段

先に逝きよった

「幸一はよく泣く子だった、
寝つかん夜はおぶって母さんと一晩中歩いたこともある。
母さんは幸福だったんかのう。
仕事ばかりして、ゆっくり話も聞かんかった。
そしたら先に逝きよった」
(岡崎京子「乙女ちゃん」/「エンド・オブ・ザ・ワールド」収録より)



息子(幸一)と喧嘩をして、家を飛び出して川縁を歩いていた父親の台詞。
母親は、既に亡くなっている。
何故だかわからないけれど、この台詞を読んだ瞬間、
泣きそうになった。
感動した、とはちょっと違うかもしれない。
何か、どうしようもない程に懐かしいものに出会った、
強いて言えばそういう気分だった、かもしれない。
やるせない切なさ、そんなものがそこには在って。


著者: 岡崎 京子
タイトル: エンド・オブ・ザ・ワールド